天下雑誌 台湾屈指の名門病院、長庚病院で今年6月以降、救急専門医師40数人が相次ぎ辞める事件が発生、台湾の救急医療が崩壊しかねないとして社会問題化しています。天下雑誌(629期)が伝えました。

 長庚病院は新北市林口区など全台湾に8病院を持ち、うち林口本部病院は年間の受診者延べ750万人、病床数1万床超でともに単体の病院では世界一です。救急病院でも台湾最大で、台湾の救急患者の10人に1人は長庚病院に運ばれるとのこと。救急専門医師の大量辞職が、社会問題化する所以です。

台プラ創業者の王永慶氏が創設

 長庚病院は、石油化学大手、台湾プラスチックグループ(台プラ)の創業者、故・王永慶氏が台湾での医療普及と、医療技術向上を目的に創設しました。

 今や規模だけでなく技術的にも生体肝臓移植と整形外科の分野で世界最先端とされています。

 ただ、万人に開かれた医療を目指したことが、コスト高の救急医療重視につながり病院の利益が近年激減しています。基隆市と嘉義県の長庚病院は長年赤字続き。14年には全台湾の病院中、赤字額が1位と2位となりました。

 両病院とも「重度救急病院」に指定され、急性心筋梗塞や急性脳梗塞などの専門医配置が義務付けられていることで、病院の費用が大きくなっています。

 病院経営陣が、両赤字病院の「中度救急病院」への格下げを検討を始めたため救急医が不安視し、大量の辞職につながったとみられています。ただ、医師同士の勢力争いが真相との見方も出ています。

実態は石油化学王国の持ち株会社

 長庚病院は事実上、台プラグループの経営を支配する持ち株会社で、病院理事会のトップ以下理事6人を王一族が占めています。この病院のトップになれば、売上高1兆7800億元(約6兆5000億円)の石油化学王国、台プラグループを支配できるので一族の権力闘争の場にもなっているとのことです。

 長庚病院には、台プラグループ傘下4社から株式配当益がもたらされています。2016年の純利益のうち医療事業が3億2100万元だったのに対し、医療事業以外が99億4000万元に上り、ほとんどが配当益とみられています。

 一方、病院経営で医師ら医療専門家の権限が極めて小さく、予算の権限も限られているそうです。また、故・王永慶氏に比べて医師への尊敬の気持ちが少なく、コスト管理偏重で、歪んだ経営が行われているとの指摘もあります。

公的医療保険制度にも問題

 長庚病院のように台湾の財団法人経営の医療機関は多くが、家族による理事会の独占や情報公開の不足、当局による監督の不行き届きなどの問題を抱えているようで、制度改革が求められています。

 このほか台湾の公的医療保険が医療機関への支払額に上限を設けていることも病院経営を圧迫する背景にあります。長庚病院事件は、台湾の医療体制全体の問題をあぶり出す結果となりました。