![束見本](https://livedoor.blogimg.jp/ads14831-taiwan/imgs/6/1/612c9fa4.jpg)
ここ数年、全国各地の縄文時代の遺跡やミュージアムを訪れる人は、「土偶女子」などと称される若い女性を中心に、確実に増えてきているとされ、日本最大級の縄文遺跡とされる青森県青森市の三内丸山(さんないまるやま)遺跡には、平成から令和にかけての10連休中、「1日平均約3000人が訪れた」(事務局職員)そうで、同遺跡は施設の充実やサービス向上のため4月6日から有料化に踏み切ったが、「大きな落ち込みはない」(同)という。
また、東京・上野の東京国立博物館で昨年開催された特別展「縄文―1万年の美の鼓動」では、開催期間(7月3日から9月2日)中の入場者が35万人を突破した。生命がもつ凄まじいエネルギーを感じさせる火炎土器や多産と豊穣を祈ったとされるキュートな土偶などが、IT(情報技術)の進歩やAI(人口知能)の普及などによって人間の存在理由が改めて問われる中、人々の心を引き付けるのかも知れない。
そんな中、稲作の伝来によって古代の社会が大きく変わった縄文晩期を舞台とする歴史エンタメ漫画が発売された。
まんが 新日本縄文書紀 (KKベストセラーズ)で、女流漫画家・竹姫(ちくひめ)さんの作品。女性向け乙女コミック・時代モノ・オカルトモノ・ホラーなど多彩なジャンルを手掛け、多数のコミックスが発売されているが、代表作は「時遍路」(上下2冊)。松文館無頼コミックスから出版されており、女性自身で連載されていたものだ。また自身のpodcast番組を持ち、そこから歴史や民俗学に関する配信を行っている。実力派で、古代史への造詣も深い。そんな竹姫さんに縄文ブームについてきいた。
ーー今の縄文ブームをどうお思いですか?
竹姫 縄文をテーマにした展覧会やフェスティバルなどがあちこちで行われるようになり、これまであまり興味を持たなかった層や小さなお子さまなども縄文文化に目を向けるようになってきたといった印象があります。土偶や火炎土器などの造形の面白さを入り口に、歴史に興味を抱いていくということでもあり、凄くいいなと思います。
![漫画中身](https://livedoor.blogimg.jp/ads14831-taiwan/imgs/1/a/1aac5194.jpg)
ーー竹姫さんも古代史ファンで各地の遺跡などをよく訪ねていらっしゃるとのことですが、きっかけは何ですか。縄文時代の海のルートの中で重要な位置を占める五島列島の福江島にも行ってらっしゃるとうかがいました。
竹姫 一番初めが何だったかというとはっきりとは覚えていないのですが、違和感から何かを推理していくのが好きだったというか…。子供の頃のことですが、「どうしてこの神社には拝殿とは別に奥の方に大きな石があるんだろう」と不思議に思って調べ始め、そこが土着の祭祀場などのあった場所と分かり、ワクワクしていました。古代の祭祀場の後に社殿が建てられることも多いんですよ。
福江島など五島列島の島々は、キリシタン関係の重要な場所でもあり、取材で足を向けましたが、古代から人々が生活をしていた場所であり、出土品からも彼らの息遣いを感じることができます。今回の作品にも出てくる漁の場面ですが、以前、生月島で古代漁法の展示を目にしたことが作画するうえで役立ちました。また、福江島にある鬼岳から広大な星空を眺めたことがあるのですが、月が翳り、街灯のない時代の夜の明るさがどの程度のものなのか、木や草の匂い…。そういった肌で感じたことも、作品作りの参考になったと思います。
福江島は遣唐使船の最後の補給地だったのですよ。対馬の展望台からは夜に瞬く韓国の街の明かりを目にしました。作品の中には海と船のシーンが多数登場します。そういった場所の距離感が頭に入っていたことも、描かせていただく上でのヒントになりました。
ーー縄文の魅力を教えて下さい。
竹姫 「わからないことが多い」のが魅力なのかな、と思います。例えば縄文のイメージ
の捉え方は私の子供のころからだけでも随分変わってきていて、新たな出土品や研究結果からどんどん更新されていっています。謎が多いのも楽しいものだと思います。
ーー縄文人とわれわれ現代との間で、人間として、変わらない分部と変わってしまった部分が何かありますか。
竹姫 変わらない部分は血縁や家族、縁のある近しいものを大事にする感覚でしょうか。縄文時代においては家族の減少は現代より深刻な問題で、働き手の損失につながる死活問題だったと思います。しかしそうした利害関係以前に、人として家族や恋人をいつくしむ心があったと考えて間違いなく、出土する墓の埋葬方法を見てもそれは明らかで、現代の我々の感情と何ら変わりはないのでしょう。
一方で変わった点があるとすれば、良い悪いではなく、圧倒的に現代人のほうが「知りすぎている」。そのために何か行動する前にだいたいの予測がたってしまうことが往々にしてあり、便利な半面、閉塞感というか、頭打ち感…ともすると他人の言葉やメディアに惑わされる危機もあり、慎重な情報取捨選択が必要なのではないでしょうか。
ーーもし、われわれ現代人が縄文人から学ぶことがあるとすれば、どのような点でしょうか。
竹姫 生きることにしたたかになる、ということでしょうか…。作中の登場人物であるポポの言葉に「諦めは死への入り口、生き抜くことが未来への扉」といったものがありますが、とにかく生あるうちは生きる。無理をしようとすれば必ずどこかにヒズミが生れて後々ダメージになりますし、生きていくことはそれだけでも結構大変なのだから、誰もが「何者か」になる必要はなく、確実に訪れる死に向かって日々を悔いなく暮らしていく。そういったことかと思います。
ーー漫画の原作(信太謙三氏の小説「天孫降臨――日本縄文書紀 」)があったとはいえ、だれも目にしたことがなく、しかも、資料が乏しい縄文時代を描くことは容易なことではなかったと思います。
竹姫 やはり衣装が難しかったですね。土偶などの着用している衣類や模様から想像して絵に落とし込んでいく方法もとりました。渡来人の衣装については同時代のその国のものを参考にすればよかったのですが、時代が下った後、即ち、第二部にでてくる集落の人々の着衣には悩みました。
どの程度大陸由来のイメージなどを残し反映させるかという問題です。また、雪のシーンがありますが、九州であり基本裸足の筈だが雪道では獣皮を巻いただろうとあれこれ考えながら絵にしました。
漫画的に華やかさや見栄えという点で奇異なアレンジをするよりも、できるだけ「あったかもしれない」方向に寄せたいと思いました。髪型は三つ編みを多用しています。埴輪の表現に残る「みづら」などは編むより束ねるというものが多いのですが、動き回る縄文の性質上キッチリ編んで固定して、そうそうは洗わないようなイメージで描きました。
ーー今回出版された「歴史まんが・新日本縄文書紀」の中で竹姫さんが読者に最も伝えたかったメッセージは何でしょうか。
![Image-5 (1)](https://livedoor.blogimg.jp/ads14831-taiwan/imgs/7/5/75c775c2.jpg)
竹姫 やはり、命は連綿と続いているということ。誰かの先祖が生きて死んでまた次の世代につながってそうして今がある。それを感謝しようとかありがたがろうとか言うのではなく、そうした事実を考えたときほんの少しでも遠い昔の歴史を近いものとして捉え、親しみを持ち。ご自身の人生を楽しんで頂ければいいなと思います。
ーー最後の質問になります。今回、高い評価を受けた古代史漫画を今後も出していかれるおつもりでしょうか。
竹姫 今回このような機会に恵まれたことを心から感謝し、楽しんで描かせていただきました。一存ではどうにもならないことですので(笑)是非そういった場をまた頂けるのであれば。何卒よろしくおねがいいたします。
(インタビュア・ライター 井上雄介)