中華圏のお盆である清明節を前に、馬英九総統が台北市内の忠烈祠(英霊を祭る廟)で、中国西安にある黄帝陵を遥拝(ようはい)する儀式を行った。中華民国の父孫文でも、蒋介石元総統でもなく中華民族の共通の祖先である黄帝を祭ったことは、中国に対する意思表示とみられ、台湾で議論が起きている。 馬総統は、黒塗りの車で忠烈祠に乗り付けると、祭壇の前に直立。全員で国歌を斉唱するや儀式を始めた。忠烈祠は、国事に倒れた英霊を祭る場所だ。 儀じょう兵から渡された線香3本を顔の前に捧げ持ち、頭を深々と下げた。再び儀じょう兵から黄色い花輪を受け取り祭壇に捧げるなど、極めて厳かに行われた。馬総統が黄帝を祭る儀式を行ったのは2009年に続いて2回目だ。 野党民進党の議員は「黄帝陵参拝は中国が先に始めた。彼らの統一工作に同調するもの」と批判。国民党からは「先人を祭るのは誠に誠に当然のこと」と擁護している。 しかし、賛成論にせよ反対論にせよ、議論はあまり盛り上がっていない。メディアの報道はひややかで、市民も無関心だ。何しろ、実在しないとされる伝説上の皇帝を拝まれても、ピンとこないというところか。 馬総統は、少なくとも国家の公人として祭祀をする以上、なぜ黄帝なのかをもっと丁寧に国民に説明した方が良いと思う。 ◆◆◆ ところで中台統一は中華民族の大義という。これは中台の政治体制を乗り超えた上部に統一の大義があるという理屈だ。馬総統は、中華民族の一員として、その歴史に名を刻む願望があると思う。 しかし、中華民族とは何だろう。黄帝が中華民族のシンボルと心底そう思える中国人ないし台湾人がどれだけいるか疑問だ。まったく想像だが、馬総統は国民党の主席として、中華民国初期の中華民族思想を受け継いでいるのかも知れない。