台北大橋のたもとに床屋を見つけて飛び込んだ。家の近所は美容院ばかり。女性に混じって頭を刈られるのは居心地が悪いし、何よりひげそりがない。その店は初老の白衣の2人が切り盛りしていた。 伸びた丸刈りを指して「山本頭にするか」と聞く。五十六提督に因み坊主頭を台湾ではそう呼ぶ。うなずくとバリカンを取り出し手際よく刈り始めた。待望のひげそりは、白い大きなシェービングカップで石けんを泡立て、ブラシで塗りたくる。そりあとはローションではなく、メンソレータムをぺたぺたやる。 すべてが済んで椅子から立つと、さっとタバコの箱が出された。どれもふた昔前の日本の床屋の流儀。「謝謝」の声を背に、煙をくゆらせながらゆったり店を出た。湯上がりのような爽快さは床屋ならでは。次回は「日本平頭」(角刈り)にしようと思う。