中国渡航トラブルが1年で4倍に急増、陸委会が異例の警鐘
台湾の対中政策を所管する大陸委員会(陸委会)は2026年1月29日の例行記者会において、直近2年間で中国当局により「身体の自由」を制限された台湾住民の統計を公表した。発表によると、2024年1月1日から2025年12月31日までの2年間で、中国渡航後に音信不通、足留め・取り調べ、あるいは拘束などの被害に遭った台湾人は累計276人に上る。
特筆すべきは、2025年に入ってからの急激な増加傾向である。2024年のトラブル発生件数は55人であったのに対し、2025年は221人へと4倍に激増した。中台関係の緊張が続く中、中国当局による台湾住民への監視や法執行が一段と厳格化している実態が浮き彫りとなった。
拘束理由の7割が詐欺容疑、背景にある「厳打」政策
身体の自由を制限された160人のうち、約7割にあたる114人が「詐欺事件」への関与を理由に拘束されている。この多くは電話やインターネットを用いた**特殊詐欺(電信詐欺)**に関連するものとみられる。中国当局は近年、社会問題化している特殊詐欺に対して「厳打(厳格な取り締まり)」政策を敷いており、実行犯のみならず、拠点の提供者や末端の「かけ子」に対しても極めて厳しい刑事罰を科している。
台湾住民がこれらの犯罪に意図せず加担させられるケースも少なくない。高額報酬を謳う求人広告に誘われて中国へ渡航し、現地でパスポートを没収された上で詐欺業務を強制されるといった事案が多発している。こうした背景もあり、陸委会は「単なる刑事事件」として片付けるのではなく、構造的なリスクとして注意を促している。
台湾での「日常」が犯罪に? 気功や宗教活動への厳しい目
今回の発表で大きな注目を集めたのが、詐欺以外の理由による拘束事例である。統計によると、一貫道などの宗教活動を理由とした拘束が14人、国家安全に関わる事件が1人となっている。
梁文傑報道官は具体的な事例として、世界各地で気功や自然療法の講座を開いていた台湾人が、2025年3月に中国公安当局によって逮捕・起訴された件を挙げた。この当事者は営利目的ではなく、受講料も徴収していなかったが、中国当局はこれを違法な活動と見なした。
中国では、当局が認可していない団体による集会や精神修養の普及に対して極めて敏感であり、台湾では「心身の健康増進」として日常的に行われている気功の教授であっても、組織的な宗教活動や社会秩序を乱す行為として処罰の対象になる可能性がある。梁氏は「台湾での当たり前が、中国では犯罪になり得る」と述べ、法制度と法解釈の根本的な違いが、身体の自由を奪われる直結のリスクになっていると強調した。
企業の安全管理と個人のリスク評価
2025年以降の急激な件数増加は、中国が施行した「反スパイ法」の改正や、国家安全に関する一連の法整備と無関係ではない。中国当局はデジタル監視網を駆使し、SNS上での過去の発言や所属団体、渡航歴などを詳細に把握している。
ビジネスや親族訪問で中国へ渡航する際、かつては「政治的な発言を控える」程度で十分とされていたが、現在は「宗教」「健康増進(気功)」「慈善活動」といった非政治的な領域においても、中国独自の基準で摘発されるリスクが生じている。企業にとっては、駐在員や出張者の安全を確保するためのリスクマネジメントが喫緊の課題となっている。陸委会は、中国への渡航を検討する際は最新の治安情報を確認し、自らの活動が現地の法的リスクに触れないか、これまで以上に慎重に評価することを強く求めている。
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