2026年2月4日午前7時45分ごろ、台湾苗栗市の南苗市場において、刃物を持った男が警察官を切りつけ、同行していた警察官によって射殺されるという凄惨な事件が発生した。この過程で、制圧を支援しようとした一般市民にも流れ弾が当たる二次被害も生じている。本稿では、事件の全容を整理し、台湾社会における法執行の在り方と精神疾患患者の再犯防止策という二つの側面から背景を掘り下げる。
苗栗・南苗市場での凶行:事件の発生と警察の対応
事件の舞台となったのは、早朝から多くの買い物客で賑わう苗栗市の南苗市場である。40歳の鍾姓の男は、同日午前7時すぎから折りたたみナイフを手にした状態で市場内を徘徊していた。目撃者や店主の証言によれば、鍾は露天商に対し「携帯電話の充電が切れたので貸してほしい」と詰め寄ったり、一部の商人に金銭を要求したりするなど、情緒不安定な様子で周囲に脅威を与えていたという。
市場管理人の説得にも応じず、鍾がナイフを握ったまま居座り続けたため、苗栗警分局から朱姓、李姓の警察官2人が現場に急行した。警察官は繰り返し武器を捨てるよう命じたが、男はこれを拒否。制圧のために催涙スプレーを使用したところ、男は激高して抵抗を強めた。後退中に朱警官が転倒した隙を突き、男は持っていたナイフで同警官の頭部を2回猛烈に切りつけた。至近距離での執拗な攻撃により、朱警官の顔面は瞬時に鮮血に染まった。
銃器使用の妥当性と「流れ弾」による二次被害
同僚が襲撃される事態を受け、李警官はさらなる致命的な被害を防ぐため、拳銃を2発発射した。1発が男の胸腹部に命中し、男はその場に転倒した。搬送先の大千病院で約3時間に及ぶ救命措置が行われたが、午後に入り死亡が確認された。
一方で、現場で制圧を助けようとした55歳の男性市民・羅さんの左手掌に流れ弾が当たるという不測の事態も発生した。羅さんは、警察官が切りつけられるのを見て加勢に入った際に被弾したと話している。幸い命に別状はないが、警察側は「緊迫した状況下で非致命的な部位を狙ったが、揉み合いの中で弾道が逸れた」と説明している。
負傷した33歳の朱警官は、左額と頭頂部にそれぞれ7センチ、10センチの深い裂傷を負い、最大で1000ccに達する大量出血に見舞われた。緊急手術の結果、容体は安定したが、頭蓋骨に一部ひびが入っていることが判明し、現在は集中治療室(ICU)で厳重な経過観察が行われている。
容疑者の背景と精神疾患を巡る社会的課題
本事件の背後には、台湾社会が抱える精神疾患患者のケアと再犯防止という重い課題が横たわっている。死亡した鍾容疑者は、長年にわたる薬物依存(アンフェタミン)とアルコール依存により精神状態が悪化しており、2005年から入退院を繰り返していた。中度の精神障害者手帳を所持していたが、服薬コンプライアンスが極めて悪く、知能の退化や自制心の欠如が顕著であった。
過去の犯罪歴も凄まじく、2013年以降、家族や同級生、さらには入院中の病友や警察官を襲撃する事件を繰り返していた。殺人未遂や重傷罪で医療機関での監護処分を3年間受けた経歴もあったが、退院後の地域社会でのフォローアップが機能していたとは言い難い。
今回の事件を受け、内政部警政署(日本の警察庁に相当)の張栄興署長は「警察官の身を守るための正当な銃器使用である」と断言し、法執行の正当性を全面的に支持する姿勢を見せた。台湾では近年、警察官の受難事件が相次いでおり、警械使用条例の改正などにより、緊急時における警察官の毅然とした対応を促す政策が推進されている。本件はその政策意図が反映された事例と言えるが、同時に模倣犯の発生を懸念する声もあり、各地の警察機関では勤務体制の強化が図られている。
[出典] 苗栗男市場持刀連砍員警頭部 遭警開槍送醫不治 南苗市場恐慌!男持刀拒捕 砍警遭擊斃 台灣苗栗街市狂男斬傷警察頭部遭開槍擊斃 有民眾被流彈誤傷
