民衆党の独自案提示:国防予算70%削減の衝撃
台湾の国防予算を巡る与野党の攻防が新たな局面を迎えている。第2野党の民衆党の黄国昌主席は2026年1月26日、頼清徳政権が提示している「8年間で1兆2500億元(約6兆円)」規模の軍事調達特別条例案に対し、総額を4000億元へと大幅に削減する党独自の対案を公表した。
この民衆党案は、予算規模を従来の約3分の1に圧縮するだけでなく、予算の編列方式についても大きな変更を迫るものだ。具体的には、複数年の一括予算ではなく、1年ごとに立法院(国会)の同意を求める「1年1期」方式への変更を主張している。さらに、不測の事態に備えた「列管(管理留保分)」として全体の約20%にあたる881億元を確保する内容も盛り込まれた。黄氏は議員退任を目前に控え、予算執行の透明性と議会の監督権限を強調する構えを見せているが、この大幅な削減案は台湾の防衛戦略に大きな波紋を広げている。
台湾国防省が記者会見で反論:対米交渉の「SOP」を無視
民衆党の発表を受け、台湾国防省は翌27日に記者会見を開き、「専門的な評価が完全に欠如している」と異例の強さで批判を展開した。国防省が特に問題視しているのは、対米軍事売却(FMS)における国際的な標準作業手順(SOP)との乖離だ。
国防省の説明によれば、現行の政府案に盛り込まれた装備品リストは、米国側と1年以上にわたり密接に協議し、戦区レベルの評価や跨部門審査を経て導き出された成果であるという。米国連邦議会や国務省、アメリカ在台協会(AIT)からも公式に肯定されており、民衆党案が主張するような「政治的宣示」による予算ではないと断じている。
また、民衆党案が各軍事調達項目の最高限度額を明記している点についても、国防省は懸念を表明した。兵器の単価や納期は米国防省と契約業者との協議を経て確定するものであり、事前に上限を固定することは、実質的に軍事調達の交渉難易度を不必要に高める行為に等しい。国防省は、独自案が米国議会への通告が必要な項目の一部のみを恣意的に抜き出した不完全なものであると指摘し、国家防衛のレジリエンス(強靭性)を破壊するものだと強く警告した。
与党・民進党の追及:機密漏洩の疑いと防衛網の空白
与党・民進党も民衆党案に対して厳しい姿勢を崩していない。民進党立法院党団は、民衆党案が政府案から「重層迎撃網(多重防空網)」や、中国の供給網を排除する「非レッドサプライチェーン」、さらには「台湾の盾」といった国家防衛の根幹をなす重要項目を削除している点を指摘した。
特に、民進党の鍾佳浜幹事長は、国防調達が高度な機密性を伴う行政部門間の緻密な議論に基づいていることを強調。「野党が先天的に独力で国防特別条例を作成すること自体が不可能だ」と述べ、行政院が提案し立法院が厳格に審査するという本来のプロセスに立ち返るよう求めた。また、沈伯洋議員は、議員が軍事調達を主導しようとする姿勢を「国防部を不要とする暴挙」と非難し、黄国昌氏を「国防部長」と揶揄する皮肉を交えて批判した。
さらに、具体的な調達金額の数値を明示したことに対し、国家機密を漏洩した疑いがあるとの疑念も浮上している。立法院の程序委員会では、政府の国防特別予算案がすでに10回にわたり野党側によって阻止されており、台湾の安全保障を支える防衛戦略の根幹を巡る対立は、かつてないほどの泥沼化の様相を呈している。
[出典]
[関連情報]
- 頼清徳政権の国防戦略:8年間の軍事調達計画の全貌
- FMS(対外軍事売却)とは?台湾への武器輸出プロセスの基礎知識
- 台湾立法院のねじれ現象:予算案否決が続く政治的背景
- 非レッドサプライチェーンの構築:台湾防衛産業の新たな挑戦
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