トランプ政権が推進する「台湾武装化」と111億ドルの軍事支援
トランプ米大統領は18日、2026会計年度の国防予算の枠組みを定める「国防権限法(NDAA)」に署名し、同法は成立した。これに先立ち、米国政府は計8件、総額約111億ドル(約1兆7200億円)に及ぶ大規模な対台湾武器売却計画を議会に通知した。今回の売却は、トランプ氏が今年1月にホワイトハウスに再登板して以来、2度目の大規模な軍事支援となる。
売却項目の中心となるのは、ウクライナ侵攻でもその有効性が証明された高機動ロケット砲システム「ハイマース(HIMARS)」82セットと、陸軍戦術ミサイルシステム(ATACMS)420セットであり、これだけで40億ドルを超える規模である。さらに、最新鋭のM109A7自走榴弾砲60セットや、反装甲型無人機システム、戦術ネットワーク「台湾戦術ネットワーク(TTN)」の構築支援も含まれる。これらは台湾が「非対称作戦」の優位性を発揮し、中国に対する強力な抑止力を迅速に構築するための戦略的な装備群と言える。
国防権限法が定める「台湾安全保障協力イニシアチブ」と外交的波紋
新たに成立したNDAAは、軍事装備の売却に留まらず、より多角的な支援を法制化している。2026会計年度予算のうち最大10億ドルが「台湾安全保障協力イニシアチブ」に授権され、医療設備や戦傷者ケア能力の拡充に充てられる。また、2026年から2030年にかけて米沿岸警備隊(USCG)を台湾に派遣し、海上保安能力や法執行能力を強化するための合同訓練計画を策定することも義務付けられた。
特筆すべきは、同法に付随する「不差別台湾法(Taiwan Non-Discrimination Act)」を通じた、台湾の国際通貨基金(IMF)加盟支持である。トランプ氏は署名に際し、無人機の共同生産やIMF加盟支持といった一部条項について「大統領の外交権限を制限する可能性がある」として懸念を表明した。これは議会の主導権を認めつつも、三軍総司令官としての裁量を維持する狙いがある。対する中国側は、国務院台湾事務弁公室(国台弁)が「台湾を火薬庫に変える行為だ」と猛反発。「台湾問題は中米関係において越えてはならない第一のレッドラインである」とし、武力行使を辞さない強硬な姿勢で警告を強めている。
納入遅延問題と実効性への課題:215億ドルのバックログ
軍事支援の規模が拡大する一方で、現実的な課題として浮上しているのが米側の生産能力不足に伴う納入遅延だ。台湾国防部の報告によれば、米国による対台湾武器売却の未納入分(バックログ)は215.4億ドルに達している。
例えば、2017年に承認されたAGM-154C滑翔爆弾は、本来2023年に納入予定であったが、米側の生産ラインの都合により2026年まで遅延している。また、今回の売却に含まれるミサイル類も、全数の引き渡しが2030年末までかかる見通しのものが多い。台湾側は米国の揺るぎない支援に謝意を示す一方、有事の際の即応性を確保するためには、契約上の数字だけでなく、物理的な装備の迅速な取得が不可欠である。トランプ政権が国防予算の増額と共に、米国内の軍需産業の生産スピードをどこまで引き上げられるかが、今後の台湾海峡の軍事バランスを左右する鍵となる。
[出典]
#対台湾武器売却 #トランプ政権 #国防権限法 #米中対立 #台湾海峡の安定
