台米関税交渉の妥結とTSMCによる対米投資拡大の背景
台湾の鄭麗君行政院副院長と、経済貿易交渉オフィス(OTN)の楊珍妮(よう・しんき)総交渉代表は2026年1月14日夜、米国との第6回実務協議に臨むためワシントンへ到着した。数カ月間にわたり停滞していた台米間の経貿交渉は、トランプ政権との実務協議によって一気に最終局面へと突入している。今回の協議の最大の焦点は、台湾から米国への輸出にかかる関税の大幅な引き下げと、それに対する「見返り」としての巨額投資の確約だ。
関係筋の情報によると、交渉の柱は台湾からの輸入関税率を、現行の20%から日本や韓国と同水準である15%へ引き下げることにある。2025年にトランプ政権が導入した広範な関税政策に対し、台湾は個別交渉を通じて優遇措置を勝ち取る狙いだ。これに対し、台湾側は「経済的カード」として半導体受託生産最大手、TSMC(台湾積体電路製造)の対米投資拡大を提示している。TSMCは現在、アリゾナ州ですでに6基の工場と2基の先進パッケージング工場の建設を進めているが、今回の合意により、さらに少なくとも4棟の半導体工場を追加建設する見通しとなった。これは、米国内での先端半導体自給率を高めたいトランプ政権の意向に沿うものであり、台米の利害が一致した形といえる。
行政院が掲げる4つの交渉目標と「台湾モデル」の確立
行政院は今回の協議において、単なる関税の引き下げにとどまらない4つの戦略的目標を掲げている。第一に、互いに関税を引き下げつつ、特定の品目について米国の最恵国待遇(MFN)関税と追加関税が重なって課される「二重課税」の回避だ。これにより、台湾企業のコスト競争力を日韓並みに引き戻す。
第二に、米国の通商拡大法232条に基づく半導体および関連製品への関税免除措置の確定である。安全保障を理由とした232条関税は、ハイテク産業にとって大きな障壁となってきたが、今回の交渉で免税待遇を確保できれば、台湾の半導体産業にとって極めて大きな勝利となる。
第三に、「台湾モデル」による米国サプライチェーンへの参入と、台湾企業にとって有利な投資環境の確保だ。これは、単に工場を建てるだけでなく、米国内の産業エコシステムにおいて台湾が不可欠なパートナーとしての地位を確立することを意味する。そして第四に、台米間の貿易バランスを改善させ、次世代の核となるAI(人工知能)サプライチェーンにおいて、戦略的なパートナーシップを構築することを目指している。世界的なAI需要の爆発的増加を背景に、台湾のハードウェア製造能力と米国のソフトウェア・プラットフォームを強固に結びつける狙いがある。
米中首脳会談を見据えた台米の経済的紐帯
今回の電撃的な交渉加速の背景には、2026年4月に予定されているトランプ大統領と中国の習近平国家主席による首脳会談がある。台湾側としては、米中間の緊張が再燃、あるいは新たな取引が行われる前に、米国との経済的な結束(紐帯)を既成事実化しておきたいという強い思惑が働いている。
今回の実務協議終了後、速やかに合意内容が発表される見込みであり、後日、米通商代表部(USTR)との間で正式な署名が行われる予定だ。署名された協定全文は、その後、台湾の国会審議に付される。トランプ政権下での「実利重視」の交渉スタイルに対し、台湾は「巨額投資とサプライチェーンへの貢献」という明確なインセンティブを提示することで、安全保障と経済の両面で米国との関係を深化させようとしている。この協定が成立すれば、東アジアの半導体供給網と地政学的な勢力図に大きな影響を与えることは避けられない。
[出典]
- 政院證實 鄭麗君、楊珍妮赴美第六輪關稅實體磋商 會後宣布共識內容
- 路透:台灣高層赴華府 磋商對美貿易與投資
- 彭博:台銷美關稅降至15% 鄭麗君楊珍妮趕赴華府推進協議
- 關稅談判鄭麗君14日已赴美磋商 結束後雙方將宣布共識內容
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