国慶大会、厳重警備のもと開幕
台湾の建国記念日「双十節」を祝う国慶大会が10日午前、台北の総統府前広場で盛大に開かれた。空軍アクロバットチーム「雷虎小組」が「勇鷹(Yung Ying)」高等教練機5機による編隊飛行を行い、彩煙を放ちながら総統府上空を通過。さらにCH-47SDチヌーク輸送ヘリが巨大な国旗を掲げ、2機のUH-60Mブラックホークヘリが伴走した。
会場では前年を上回る厳重な警備体制が敷かれ、祝賀テーマは「中華民国生日快樂」。混迷する国際情勢の中でも「平穏で幸福な国家」を象徴するものとされた。
「台湾鉄穹」から「台湾の盾」へ AI統合防空網の全貌
ロイター通信や台湾各紙によると、頼清徳(らい・せいとく)総統は演説で、AIを核とした新型防空体制「台湾鉄穹(Taiwan Dome)」構想を示し、その正式名称を「台湾の盾(T-Dome)」として発表した。
この防衛システムは、国産装備と海外製品を統合し、人工知能などのスマート技術を活用して「全面的なシステム連接」を行う。目的は、無人機、ロケット、ミサイル、軍用機など複数の脅威が同時に発生する「多重攻撃」への対応強化にある。
頼総統は「台湾分層防禦・高度感知・効果的迎撃を備えた厳密な防空システムを構築し、国民の生命と財産を守る防護網を張る」と述べ、イスラエルの「アイアンドーム」が中東で機能している例を引き合いに出した。
「三大目標」で国防改革を推進
頼総統は国防費増額の明確な理由として三つの柱を挙げた。
①「台湾の盾」構築を加速すること。
②AIと高科技を結合してスマート防衛作戦体系を築くこと。
③国防イノベーション技術に持続的に投資し、先進国の防衛産業と連携を強化すること。
「地場での研究・設計・製造を通じてサプライチェーンを強化し、軍需産業の弾力性を高める。台湾を信頼できる安全保障パートナーにする」と強調した。
国防費を2030年にGDP比5%へ 「平和は実力で守る」
頼総統は、「第二次世界大戦終結から80年、侵略は必ず敗れ、団結は必ず勝つ。平和は実力でのみ守れる」と述べ、年内に国防特別予算を提出する考えを表明した。
「来年度(2026年)の国防予算は北大西洋条約機構(NATO)の基準を上回るGDP比3%を超える水準に、2030年には5%に到達させる」と明言し、台湾防衛の決意を示した。
「国防支出の増額は無目的ではない。敵情の変化に対応する明確な必要があり、同時に国防産業発展の原動力でもある」と説明した。
中国に「責任ある大国の姿勢を」求める
演説では、中国に対し「大国としての責任を果たし、国連総会第2758号決議や第二次大戦関連文書の解釈を歪めることをやめ、武力や威圧で台海の現状を変えようとする行為を放棄すべきだ」と呼びかけた。
頼総統はまた、「民主台湾はインド太平洋の平和と安定の要であり、国際社会の責任ある一員として現状維持を守り、台海の平和と安定を促進する」と述べた。
「前進の力」六大関鍵力で示す国家像
頼総統の演説テーマは「前進の力―六つの核心的な力(六大関鍵力)」で、
①民主力、②革新的経済力、③福祉力、④外交パートナー力、⑤防衛・強靱性、⑥市民善意力、
の6項目で構成される。
演説では「実力で平和を守る」理念を掲げ、防衛支出の拡大と社会レジリエンス(回復力)強化を柱とする政策を示した。
経済安全保障を再構築 「投資台湾」政策を継続
経済面では、既存の「投資台湾三大プログラム」を延長し、米国の対等関税政策の影響を受けた産業を支援する計画を発表。台湾の技術革新と外交力を両立させる「経済安全保障の再構築」を提唱した。
「社会全体の防衛レジリエンス」強調
頼総統は「平和は軍事力だけでなく、社会全体の韌性(レジリエンス)によって支えられる」と強調。
総統府内に設置された「全社会防衛レジリエンス委員会」により、政府と民間、中央と地方が一体で防衛・防災体制を構築していると説明した。
また、9月に発表した新たな「台湾全民安全指針」ハンドブックを紹介し、「自然災害から軍事侵略まで、あらゆる危機に対応するための手引きとして家庭単位で普及させる」と述べた。
「国民が自助・互助の精神で参加するとき、台湾はより強靱な国家となる」と結んだ。
台湾精神を象徴する外交姿勢
頼総統は、「台湾は挑戦を恐れず、国際社会の抑圧に屈しない」との姿勢を改めて強調。
国際機関への参加を追求し続ける台湾の立場を「台湾精神」の核心として位置づけた。AIとテクノロジーを国家発展の原動力に据える方針を改めて示した。
前夜祭での訴え 「主権を放棄してはならない」
9日夜に台中市で開かれた双十節前夜祭では、「いかなる挑戦や脅威に直面しても主権を放棄せず、民主・自由・人権を守り抜く」と訴え、「台湾をより安全に、経済をより繁栄させ、国民生活をより良くする」と三大目標を掲げた。
今後の焦点 同盟協力と中国の出方
「台湾の盾(T-Dome)」構想は今後、米国や欧州などの防衛企業との協力体制、量産・配備スケジュール、国内産業の参加枠組みなどが焦点となる。
中国側がどのような反応を示すかも、台湾海峡の情勢を占う重要な試金石となりそうだ。