極限の挑戦「フリーソロ」が変えた台北の空
2026年1月25日、台湾の首都・台北のランドマークである「台北101」(高さ508メートル)にて、歴史的な、そして極めて危うい挑戦が完遂された。米国のプロクライマー、アレックス・オノルド氏が、ロープやハーネスなどの安全装置を一切使用しない「フリーソロ」というスタイルで、この巨大な摩天楼を攻略したのである。
オノルド氏は2017年にカリフォルニア州のヨセミテ国立公園にある「エル・キャピタン」をフリーソロで登攀し、その記録映画がアカデミー賞を受賞するなど、世界最高峰のクライマーとして知られる。今回の台北101への挑戦は、動画配信大手ネットフリックス(Netfliックス)が独占生配信を行い、世界中の視聴者が一歩間違えれば即座に死を意味する緊張感あふれる映像をリアルタイムで見守った。
登頂に要した時間は1時間31分34秒。台北101特有の「竹の節」のような段々状の構造は、強風や高所の気流を分散させる設計だが、クライマーにとっては特異な難易度を突きつける。オノルド氏は登頂後、「台北を鑑賞する素晴らしい方法だった」と達成感を語った。このプロジェクトは、台北101の管理組織や台北市政府の全面的なバックアップのもと、数カ月間にわたる気象分析やトレーニングを経て極秘裏に準備されていた。
台湾・頼清徳政権が狙う「半導体以外」の存在感
今回の登頂成功に対し、台湾の頼清徳総統は即座にSNSで「勇敢な挑戦を祝福する」との声明を発表した。この総統の反応は、単なる一個人の偉業への祝辞にとどまらない。背景には、台湾が直面する国際政治上の課題と、高度な広報戦略が透けて見える。
現在、国際社会における台湾のニュースは、TSMC(台湾積体電路製造)を中心とした半導体産業の覇権、あるいは中国からの軍事的圧力といった文脈に終始しがちである。頼政権にとって、ネットフリックスという巨大プラットフォームを通じて、台湾の象徴である台北101の美しさと、自由で活気ある社会の姿を全世界に同時配信できた意義は計り知れない。
また、台北市政府が今回の危険な挑戦を許可した背景には、観光地としてのプレゼンス向上と、都市としての柔軟性をアピールする意図がある。2004年にフランスの「スパイダーマン」ことアラン・ロベール氏が登頂した際は安全策が講じられたが、今回の「完全素手」かつ「生配信」という形式は、台湾という舞台を世界で最も刺激的なイベントの場へと押し上げた。
商業主義と倫理の境界線:生死のエンターテインメント化
一方で、この「生死を懸けたライブ配信」は、激しい倫理的議論を巻き起こしている。ネット上では「命を軽視した見世物だ」「落下事故が起きた場合、視聴者にトラウマを植え付ける」といった批判が噴出した。特に、ネットフリックスのような巨大資本が介在することで、視聴率や話題性のために人間の命をリスクにさらす「エクストリームスポーツの商業化」に対する懸念が深まっている。
公共の安全という観点からも課題は残る。台北の中心街という密集地において、万が一の事態が発生すれば、地上への影響は免れない。今回の成功は、周到な準備とオノルド氏の卓越した技術によるものだが、模倣犯の出現や、次なる刺激を求める配信プラットフォームの過激化を危惧する専門家は多い。
今回の台北101登頂は、人類の限界に挑む勇気の象徴か、それとも倫理を逸脱した商業主義の極致か。台湾の活力を世界に示した一方で、デジタル時代のエンターテインメントが担うべき責任という、重い問いを投げかける結果となった。
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