高雄港沖での歴史的節目:海鯤艦が初の潜航テストを完遂
台湾初の国産潜水艦(IDS)プロトタイプ艦「海鯤(ハイクン)」が2026年1月29日、南部・高雄港周辺の海域で初の海底試航および浅海潜航テストを完了した。建造を担う台湾国際造船(台船)の発表によれば、同艦は午前11時前に高雄港を出港し、午後6時30分ごろに帰港。海上試験(SAT)の手順に基づき、設定されたすべてのテスト項目を順調に消化した。
本プロジェクトは、総額493億6000万台湾元(約2400億円)という巨額の予算を投じ、米英を含む複数国の技術協力を得て進められてきた。今回の試験では、潜行深度に応じた艦船の操縦性、ソナー等の探知装備、緊急時の安全機能、および戦闘管理システムの検証が行われた。台船は潜行中の写真を公開し、開発の進捗に対する一部の疑念を完全に払拭。中国共産党による外交的圧力や国際的な制約を克服したこの成果を、台船は「歴史的な瞬間」と表現している。
「非対称戦」の切り札:潜水艦がもたらす抑止力の変質
台湾が国産潜水艦の配備を急ぐ背景には、圧倒的な軍事力を有する中国に対する「非対称戦」戦略がある。中国海軍は現在、3隻の航空母艦や弾道ミサイル潜水艦を保有し、軍事的な優位性を背景に台湾周辺での軍事演習を常態化させている。これに対し、台湾側は潜水艦、ドローン、機動性の高いミサイルシステムなどの「台湾の盾(T-Dome)」を構築し、敵の侵攻コストを最大化させる狙いだ。
潜水艦は、その秘匿性から海上の交通路を保護し、有事の際に敵艦隊を阻止する極めて強力な抑止力となる。海鯤艦は米ロッキード・マーティン社の戦闘システムを搭載し、米製Mk48重魚雷を装備する。頼清徳政権は、2027年までに少なくとも2隻の国産潜水艦を配備する計画であり、将来的には後続艦にミサイルを搭載する構想も浮上している。2025年11月には国防予算の40億ドル追加投入が発表されるなど、予算面での強力なバックアップも続いている。
台船(2208)の経営戦略と「国防自主」の産業波及効果
今回の試験成功は、製造を担う台湾国際造船(台船)の経営面にも大きな好材料をもたらしている。同社は2025年第3四半期に黒字転換(1株当たり純利益0.05元)を達成。2026年からは万海航運などの大手海運会社からの商船受注分の引き渡しが順次開始される予定だ。加えて、軍民両用で需要が急増している「無人船(ドローンシップ)」などの新業務への参入も加速させている。
台湾の軍事装備調達において、「国防自主(自主国防)」の強化は最優先の産業政策となっている。地縁政治的なリスクが高まる中、自国で高度な艦艇や防衛装備を開発・メンテナンスできる能力は、単なる安全保障上のメリットに留まらず、台湾国内の精密機械産業や造船業に莫大な経済波及効果をもたらす。2026年3月にも予定されている国防部による調達説明会を経て、国内メーカーによる「台湾の盾」構築に向けた動きは、POC(概念実証)テストから競合入札の段階へとさらに進展する見通しだ。
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