
市民運動が引き起こしたリコールの波
2024年総統選挙で民進党の頼清徳が勝利したものの、立法院では民進党が過半数を失い、国民党と民衆党が連携して多数派を形成。両党は国会改革関連法案を共同で推進し、立法院での調査権強化や議事運営の変更などを盛り込んだが、野党主導で権限を拡大し、与党を抑え込む内容だとの批判が起きた。
この動きに反発した市民団体は、議会の透明性や民主的運営を求める「青鳥行動」を立ち上げ、国民党議員に対するリコール署名運動へと発展させた。
リコール成立の条件
リコールは三段階で手続きが進む。
1,有権者の1%以上による提案
2,有効署名が有権者の10%以上(提案者は署名不可)
3,投票で次の2条件を同時に満たすこと:
- 同意票(リコール賛成)が不同意票より多い
- 同意票が有権者総数の25%以上
成立すれば対象者は即日解職され、公職給与・手当も停止。4年間は同選挙区で同職に立候補できない。失敗した場合は、残任期間中に再度リコール提案ができず、事実上の「免死符」となる。
各党と有識者の見方
与党の民進党
当初慎重だったが、頼清徳総統が6月末に「市民の力とともに歩む」と明言し、スローガン「リコールに同意票を、反共をさらに強く」に象徴されるように積極支援に転換。「親中」とされる国民党議員への批判を強めた。
最大野党の国民党


朱立倫主席は今回のリコールを「民主の恥」と断じ、与党による野党攻撃だと非難。国会の多数派構成を変える政治的策略だと位置づけている。
ただし国民党は過去に、民進党議員を対象としたリコール運動を自ら仕掛けていた。署名活動が進められたが、偽造された署名用紙が大量に使用された疑いが強まり、新北地検は国民党新北市党部書記長の陳貞容被告ら31人を文書偽造や個人情報保護法違反の疑いで起訴した。
起訴状によると、陳被告は市内各区の幹部に指示し、党員名簿を転写させ、親睦会やボランティアを動員して署名を偽造したとされる。単に名簿を書き写したボランティア19人は起訴猶予、署名運動の発起人・補助発起人11人は偽造関与が認められず不起訴となった。
この不祥事で、国民党によるリコール批判には疑問の声が上がっている。
◇参考情報
第二野党の民衆党(台湾民衆党)
第二野党、民衆党の黄国昌主席は民進党支持層が主導するリコール運動に反発し、投票日には「反対票(不同意票)」を呼びかける啓発活動を行った。
有識者の見方
台湾大学の Lev Nachman教授は、今回のリコール運動について「市民運動としてこれほど多数の議員を標的にするのは前例がなく、政治的分断や社会の緊張を一層深める恐れがある」と警鐘を鳴らしている。
一方で、別の政治学者は「リコールは有権者の憲法に保障された権利であり、有権者が制度を行使すること自体は健全な民主的プロセスだ」と評価している・
リコール後の補選と政局への影響
リコールが成立すれば、立法委員(議員)は3カ月以内に補選を行う。ただし残りの任期が1年未満なら補選せず、地方首長も残り任期が2年未満なら補選せず代理が務める。今回の高虹安市長は後者に該当し、解職されても補選は行われない。
国民党議員が6議席以上リコールされた場合、民進党が立法院の主導権を取り戻す可能性がある。台湾政治は大きく動き、政党間の力関係や地方派閥の勢力図が再編される可能性が高い。
◇参考情報
◇出典
https://udn.com/news/story/124323/8876595?utm_source=chatgpt.com
https://www.bbc.com/zhongwen/articles/cvgwzx9erylo/trad