台湾検察、軍事機密漏洩で現役含む軍人10人起訴
台湾高雄市の橋頭地方検察署は14日、国外(中国)の敵対勢力に軍事機密を漏洩したなどとして、国家安全法違反や収賄などの罪で現役と退役軍人ら計10人を起訴した。本件は国家安全保障に関わるスパイ事件として、国内で初めて裁判員制度(国民法官制度)が審理に加わる。
検察の調査によると、主犯の民間人の男(陳被告)は2024年(民国113年)9月、ネットを通じて中国の工作グループと接触。無料招待旅行や報酬を受け取る見返りに自身の銀行口座を提供し、軍人らへの贈賄資金を分配する「送金拠点」としてグループに使わせていた。中国側はSNSを通じ、資金に困っている軍人に接触。金銭を餌に「中国共産党への忠誠を誓う動画(事実上の投降ビデオ)」を撮影させたほか、軍事機密を収集・提供させていた。
起訴された10人のうち9人が軍関係者で、陸海空軍および海巡署(海上保安庁に相当)にまたがり、最高階級は少佐に達した。被告らは部隊の運用状況や装備資料をスマートフォンで撮影し、LINE等で送信。報酬は現金や仮想通貨「テザー(USDT)」などで支払われていた。収賄総額は約506万台湾ドル(約2542万円)に上る。検察は、国防の重責を担う者が私利私欲で国家安全を深刻に脅かしたとして、厳罰を求めている。
SNSを利用した浸透工作と軍内部の汚染実態
今回の事件で特筆すべきは、中国側がSNSという身近なツールを入り口に、極めて巧妙かつ組織的に台湾軍内部へ浸透していた点である。工作グループは、借金や生活苦など資金需要のある軍関係者をネット上で特定し、当初は少額の報酬を提示して心理的な障壁を下げさせた。その後、徐々に「忠誠ビデオ」の撮影や機密の持ち出しといった取り返しのつかない行為へと誘導し、弱みを握る形で長期的な協力関係を強要していた。
浸透の範囲は陸・海・空の三軍のみならず、台湾周辺海域の警備を担う海巡署にまで及んでいた。階級についても、部隊の中核を担う少佐クラスが含まれており、軍内部の教育や規律維持が機能不全に陥っていた可能性を否定できない。被告らが漏洩させた機密には、部隊の運用状況や装備の電磁的記録が含まれており、これらは万が一の有事の際、台湾軍の機動力や防衛能力を著しく削ぐ致命的な情報となる。
また、資金の流通手段として、追跡が比較的困難な仮想通貨やゲームポイントが利用されていたことも、近年のスパイ工作の巧妙化を物語っている。陳被告が開設した「送金拠点」としての口座は、中国からの工作資金を洗浄し、台湾国内の協力者に分配する中継ルートとして機能していた。こうした「資金洗浄と諜報活動の融合」は、現在の台湾が直面する最も深刻な安全保障上の課題の一つとなっている。
裁判員制度の適用と増大するスパイの脅威
本件が台湾社会に与えた衝撃は大きく、国家安全法違反の事件として初めて裁判員制度(国民法官制度)が適用されることとなった。2023年にスタートした同制度は、これまで主に重大な一般犯罪に限定されていたが、今回のような国家の根幹を揺るがすスパイ事件に市民の視点が入ることは、司法の透明性を高めるだけでなく、中国による浸透工作の脅威を国民が直接的に認識する機会にもなる。
台湾国家安全局の統計によれば、中国のためにスパイ活動を行ったとして起訴された人数は、2022年の10人から、2023年は48人、2024年には64人と右肩上がりに急増している。背景には、米中対立の激化に伴う台湾海峡の緊張感の高まりがあり、中国側が「非対称戦」の一環として認知戦や情報戦を強化している実態がある。
国際的な影響も無視できない。台湾軍の機密漏洩は、武器供与や軍事協力を行う米国などの同盟国・パートナー国との信頼関係に直結する。機密保護の脆弱性が露呈し続ければ、最新鋭の兵器導入や高レベルの軍事情報共有に支障をきたし、結果として台湾の抑止力を低下させる恐れがある。橋頭地検は今後も関係機関と連携し、ネットや金銭を背景とした国外勢力による工作を厳格に摘発する方針を強調しているが、軍組織自体の自浄能力と情報保全意識の抜本的な強化が急務となっている。
[出典]
- 境外勢力滲透軍方洩密 橋檢起訴10人成首件國民法官審理共諜案(中時新聞網)
- 台湾検察:10名の台湾人が北京のためのスパイ活動で起訴、うち9名が現役・退役軍人(RFI 法広)
- 現役・退役軍人が利誘され忠誠ビデオ撮影、機密漏洩の疑い 橋頭地検が10人を起訴(中央社 CNA)
#軍人 #ネットワーク #機密 #国外 #起訴

