米太平洋司令部の名称復活が台湾に与える影響と交渉枠組みのリスク

安全保障

米インド太平洋司令部が「太平洋司令部」へ名称を変更

米軍最大の統合軍であり、近年「インド太平洋戦略」の要として機能してきた「インド太平洋司令部(USINDOPACOM)」が名称を変更し、元の「太平洋司令部(USPACOM)」へと復帰した。米国国防総省は今回の調整について、作戦責任区域(米国の西海岸沖からインド西部の国境まで)や基本任務、地域における友好国・同盟国へのコミットメントに変更はないと強調している。国防総省はその理由について、あくまで「歴史的伝統の継承」や「将兵の誇りの結集」であると説明した。

しかし、このアジアにおける米国の戦略と言語をめぐる変更は、台湾を取り巻く国際情勢、ひいては台湾の安全保障戦略にきわめて大きな一石を投じている。

トランプ氏の「米中取引」回帰と台湾の交渉枠組み組み込みリスク

在米学者の翁履中(ウォン・リィジョン)氏の分析によると、今回の名称復帰が単なる行政上の調整ではなく、現在のタイミングで行われた点にこそ複雑な背景がある。トランプ米大統領が徐々にその重心を、これまでの「同盟枠組み」から「米中間の取引(ディール)」へと移しつつあることが、最大の要因として浮かび上がっている。

翁氏は、先日のトランプ氏による北京訪問において、米中がどれだけの問題を解決したかではなく、トランプ氏が「意図的に競争を薄め、協力を強調した」ことに注目する。貿易、エネルギー安全保障から地域の安定にいたるまで、トランプ氏が示した思考は、バイデン時代に強調された「同盟による対中対抗」ではなく、中国の習近平国家主席と直接交渉し、取引を成立させられるかどうかを見極めるという、典型的なトランプモードである。

この視点から見ると、「インド太平洋司令部」を「太平洋司令部」に戻したことが中国に対して放つ政治的シグナルは、インドに対して放つシグナルよりも重要である可能性がある。これに伴い、台湾の将来における最大の生命リスクは、「米国が台湾を重視しなくなること」ではなく、「米国が台湾をより大きな米中間の交渉の枠組みの中に組み込み始めること」である可能性が指摘されている。

「同盟の思考」から「取引の思考」への転換がもたらす影響

過去に台湾は、自らをインド太平洋戦略の核心的位置に置くことに慣れていた。台湾が米国の中国包囲網における重要な結節点でありさえすれば、米国には台湾を支持する十分な動機があると信じられてきたからである。

「インド太平洋(Indo-Pacific)」という言葉は、2018年5月にトランプ政権第1期のマティス国防長官(当時)が改名を発表して以来、インド洋と太平洋を地続きの安全保障空間とみなし、インドの戦力的役割を高めると同時に、中国の「一帯一路」や軍実にともなう経済的圧力に対抗するための明確なポリシーと言語として用いられてきた。さらにバイデン政権下では、日米印豪の「Quad(クアッド)」が首脳サミットへと格上げされ、「自由で開かれたインド太平洋」の推進が強力に宣言された。近年、米国の軍艦や軍用機が台湾海峡を通過する際にも、米軍は一貫して、その行動が国際法に合致していることを強調し、「自由で開かれたインド太平洋」に対する米国のコミットメントを示す声明を発表してきた経緯がある。

しかし、トランプ氏のロジックが「同盟を結んで中国を牽制する」から「先に取引を話し合い、その後に競争を話し合う」へと転換する場合、アジアの同盟国や台湾にとっては完全に異なる世界が到来することになる。同盟の思考は共通の利益と長期的なコミットメントを重視するのに対し、取引の思考は目下の利益と交換条件を重視するためである。したがって、台湾は今後、米国が中国に対抗するかどうかという単純な構図だけに注目するのではなく、トランプ氏が習近平氏とどのように条件を交渉する準備を進めているかという点にこそ、最大の関心を払わなければならない状況を迎えている。

太平洋司令部の歴史的背景と変わらない管轄区域

今回の名称変更の拠り所となった太平洋司令部は、もともとハリー・S・トルーマン大統領によって設立され、70年以上の期間にわたり運用されてきた、米軍で最も歴史が古く最大の規模を誇る統合軍の一つである。第二次世界大戦後の地域安全保障枠組みの構築に関与し、朝鮮戦争やベトナム戦争の期間中には統合戦力を統括したほか、長期にわたり人道支援や災害救助任務を遂行してきた歴史を持つ。

国防総省の発表通り、公式X(旧Twitter)のアカウント名もすでに「太平洋司令部」へと戻されており、作戦上の区域再編こそ伴わないものの、米国の対アジア戦略言語における実質的な調整が始まったのかどうか、世界中から厳しい注視が注がれている。

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